法務省「令和7年版犯罪白書」および警察庁「令和6年の犯罪情勢」をもとに、日本の犯罪動向を要約します。犯罪白書は法務省法務総合研究所が毎年公表する犯罪動向・処遇・再犯に関する総合的な年次報告です。
目次
要点
- 令和6年(2024年)の刑法犯認知件数は73万7,679件で、前年比4.9%増・3年連続の増加
- 検挙率は38.9%(前年比+0.6ポイント)。戦後ピーク時と比べ依然として低水準
- 刑法犯の約7割が窃盗(50万1,507件)で構成される
- 詐欺の認知件数は5万7,324件で前年比25%増。SNS型投資・ロマンス詐欺の急増が背景
- 再犯者率は46.2%(前年比−0.7ポイント)で緩やかな低下傾向
刑法犯認知件数の推移
刑法犯認知件数は、平成14年(2002年)に戦後最多の285万件を記録した後、約20年にわたって減少を続け、令和3年(2021年)には戦後最少の56万件台まで低下しました。しかし令和4年以降は3年連続で増加に転じています。
| 年 | 認知件数 | 前年比 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2020年 | 約614,231件 | −17.9% | コロナ禍で大幅減少 |
| 2021年 | 約568,104件 | −7.5% | 戦後最少 |
| 2022年 | 約601,331件 | +5.9% | 20年ぶりに増加 |
| 2023年 | 703,351件 | +17.0% | 2年連続増加 |
| 2024年 | 737,679件 | +4.9% | 3年連続増加 |
人口千人当たりの発生率は2024年で5.9件となり、戦後最少を記録した2021年から3年連続で上昇しました。
検挙件数と検挙率
令和6年の検挙件数は28万7,273件で、前年より約1万8千件増加しました。検挙率は**38.9%**で、前年から0.6ポイント上昇しています。
| 年 | 検挙件数 | 検挙率 |
|---|---|---|
| 2020年 | 約279,185件 | 45.5% |
| 2021年 | 約264,485件 | 46.6% |
| 2022年 | 約250,350件 | 41.6% |
| 2023年 | 約269,550件 | 38.3% |
| 2024年 | 287,273件 | 38.9% |
検挙率は1995年頃まで60%台を維持していましたが、2001年には戦後最低の19.8%まで低下しました。その後2014年頃から徐々に回復したものの、近年は認知件数の急増に検挙が追いつかず、30%台後半で推移しています。
罪種別の動向
令和6年の刑法犯認知件数を罪種別に見ると、**窃盗が全体の約68%**を占め、圧倒的多数です。暴力犯罪(殺人・強盗)は長期的に低水準を維持しています。
| 罪種 | 2024年 認知件数 | 前年比 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 窃盗 | 501,507件 | +3.7% | 全体の約68%を占める |
| 詐欺 | 57,324件 | +25% | SNS型投資詐欺等が急増 |
| 暴行・傷害 | 約56,800件 | 微増 | 検挙率は80%超 |
| 不同意性交等 | 3,936件 | +45% | 2023年改正刑法施行の影響 |
| 強盗 | 1,370件 | 増加 | 匿名・流動型強盗事件が問題化 |
| 殺人 | 970件 | 横ばい | 戦後長期的に低水準 |
窃盗の内訳では、自転車盗・万引きが多数を占めます。暴行・傷害の検挙率は82%前後と高水準を維持しています。
特殊詐欺・サイバー犯罪 {#特殊詐欺サイバー犯罪}
詐欺の急増は近年の犯罪情勢の最大の特徴です。2024年の詐欺認知件数は5万7,324件で前年比25%増加し、特殊詐欺(振り込め詐欺等)は2万43件に達しました。加えて、SNSを入口とするSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の被害が深刻化しています。
| 項目 | 2024年 | 特徴 |
|---|---|---|
| 詐欺 認知件数 | 57,324件 | +25% |
| 特殊詐欺 認知件数 | 約20,043件 | 振り込め詐欺等を含む |
| SNS型投資・ロマンス詐欺 | 高水準 | 被害額が特殊詐欺を上回る年も |
| サイバー犯罪 検挙件数 | 13,164件 | 過去最多 |
サイバー犯罪のほか、児童虐待にかかわる事件(2,649件)、ストーカー規制法違反(1,341件)の検挙件数もいずれも統計開始以降の過去最多を更新しました。
再犯者率の動向
刑法犯検挙人員に占める再犯者の割合を示す再犯者率は、令和6年に**46.2%**となり、前年から0.7ポイント低下しました。平成以降上昇を続けていましたが、近年は緩やかな低下傾向にあります。
| 年 | 検挙人員 | 初犯者 | 再犯者 | 再犯者率 |
|---|---|---|---|---|
| 2020年 | 約182,582人 | 約99,426人 | 約83,156人 | 45.6% |
| 2021年 | 約175,041人 | 約93,690人 | 約81,351人 | 46.5% |
| 2022年 | 約169,409人 | 約88,660人 | 約80,749人 | 47.7% |
| 2023年 | 約183,269人 | 約97,100人 | 約86,169人 | 46.9% |
| 2024年 | 191,826人 | 103,129人 | 88,697人 | 46.2% |
刑務所入所者のうち再入者の割合(再入者率)は2023年で55.0%となり、平成28年(2016年)をピークに低下傾向が続いています。再犯防止推進法(2016年施行)に基づく各種施策の効果が現れているとされます。
解説
認知件数の増加は「治安悪化」を意味するか
刑法犯認知件数は3年連続で増加していますが、戦後ピーク時(2002年の285万件)と比べれば現在の水準は約4分の1にとどまります。人口千人当たりの発生率も5.9件と、国際的に見て低水準です。増加の主因は窃盗と詐欺であり、殺人・強盗などの凶悪犯罪は依然として低水準を維持しています。「治安が急激に悪化している」というより、コロナ禍で抑制されていた社会活動の回復と、詐欺等の手口の巧妙化が重なった結果と捉える見方が主流です。
詐欺被害の質的変化
詐欺の25%増は量的変化であると同時に質的変化でもあります。SNSを入口とする投資詐欺やロマンス詐欺は、従来の電話主体の特殊詐欺とは異なる手口で、高齢者だけでなく現役世代にも被害が広がっています。匿名・流動型犯罪グループ(SNSで実行役を募集する形態)の関与も指摘されており、取締りが難しい構造的な問題になっています。
検挙率低下の背景
検挙率は2020〜2021年のコロナ禍で一時的に上昇した後、再び低下しました。背景には、認知件数の急増に検挙が追いつかないことに加え、匿名性の高いサイバー犯罪や国境を越える詐欺などの捜査が難化していることがあります。殺人・強盗・傷害等の凶悪・粗暴犯の検挙率は80%を超える高水準を維持しており、罪種による差が大きい点に注意が必要です。
再犯防止施策の進展
再犯者率・再入者率の低下傾向は、再犯防止推進計画に基づく就労支援・住居支援・薬物依存回復プログラム等の効果が一定程度現れているものと評価されています。ただし刑法犯検挙人員全体の約半数が再犯者である状態は依然続いており、出所後の社会復帰支援の強化が引き続き重要な政策課題です。